<第3の話>
ガイが壱號と一緒にカカシの元までやってきて、まず最初にしたことは
零號の脳天に拳骨を落とすことだった。
「この、馬鹿者が!!」
「いってぇーーー!!」
「何度同じことを言わせれば気が済むんだ、お前は!!
常日頃から簡単に殺すなと何度も言っているだろう!!」
「な、なにすんだってばよ、ガイ先生!!」
頭を擦りながら、もどかしそうに仮面を剥ぎ取り、ぶたれた少年が
半分涙目になってガイへと抗議する。
そこへまた。
「人前で気安く仮面をとるなーー!!!」
「ぎゃっ!!」
頬に右フックが炸裂して、見事に吹っ飛ばされた。
もんどりうって転がっていった仲間を見ていた壱號が、ガイの背を
ちょんと指で突付く。
「なあ………あれ、どう見ても弐號じゃね?」
言われてガイが、漸く気付いたとばかりに拳を固めたまま動きを止める。
きっと教えてやらなければ、第3撃が待っていただろう。
頬を擦りながら起き上がった少年を見て、六號が小さな声を上げた。
「…………ナルトくん、だ…!」
「知ってる人ですか?」
「朱いチャクラが…消えている…?」
六號の声にその方を向いた伍號の隣で、四號が訝しげな声を漏らす。
なんだかすっかりバレバレな状態に、思わずカカシは頭を抱えそうになった。
そういえば、六號と弐號はアカデミーで同じクラスだった筈だ。
ならば顔を見ただけで分かってしまうのは至極当然の話である。
本来は六號と壱號も顔見知りのはずなのだが、今のところそこまでは
バレていないようだ。
「ていうかさ、俺ってばなんで殴られてんの…?
なんで、外にいんだってばよ?」
「どういうことなんでしょうか……」
さっきまでとはまるで何もかも違う別人のような雰囲気に、知らず伍號から
疑問の呟きが零れる。
こうなってしまえば誤魔化したって無駄だ、カカシはやれやれと肩を竦めて、
飛んでいった仮面を拾い上げ、弐號へと手渡しながら口を開いた。
「こいつは弐號だ。
零號とは………まぁ、違う人間だと思ってくれたらいい」
「違うって、でも、さっきまで……」
「零の方なら、ガイ先生が来たから逃げたんじゃねぇか?
殴られんの分かってるし、やっぱ嫌だもんなぁ」
「けしからん奴だ」
壱號とガイがてんでに口を開いて、うんうんと首を縦に振る。
やはりよく分からないという風に首を傾げる子供達に、カカシとガイは
顔を見合わせて苦笑を浮かべた。
「つまり、有体に言えば二重人格ってヤツだ。それは分かるな?
朱い九尾のチャクラを自在に扱う凶暴な方が、零號。
それで、今ここに居るおバカさんの方が、弐號」
「人格が………2つ?」
「ちょ、おバカさんって何だよカカシせんせぇ!!」
「どういう状況であれ、イキナリ仮面外しちゃうなんて、
おバカさん以外の何でもないでしょ。
ま!詳しいいきさつは話してやれないけど、別人なんだってコトは
理解しといてくれ」
弐號と零號は記憶等を共有していない。
本人ですら話で聞いてお互いの人格の存在を知ったぐらいだ。
どうしても互いへ知らせておきたい事があるなら、何かに書いて
置いておくか、誰かに伝言を頼むか。
だからさっきまで零號が伍號と戦っていたことも、弐號は知らない。
それどころか、どうしてこんな森の中にいるのかすらも分からないのだ。
「………なかなか大変そうですね、それは」
「付き合う方も大変だよ、いつどこで入れ替わるか全然分からないからな」
伍號の言葉にカカシがそう言って笑う。
零號のした事について弐號を叱っても仕方が無い。
諦めたガイは弐號の腕を取って立たせると、カカシの方へと目を向けた。
「悪かったな、カカシ。助かった」
「ちゃんとツケとくから、ご心配なく」
「…………やっぱりそうなるのか」
がっくりと肩を落としてガイが呟いて、どうやらすぐに気を取り直した
らしい彼は、帰るぞ、と部下に告げた。
へいへい、と肩を竦めて従う壱號の後に弐號も続こうとして、何気無く視線を
カカシのいる方へと向ける。
傍に立つのは3人の、子供達。
自分とよく似た背格好なので、どうやら同じような立場にいるのだろうと
いうことは、さすがにすぐ理解した。
名は聞かない、必要以上に接触はしない、それがルール。
その内の一人が、ひらひらと自分に向けて手を振った。
「また、いずれどこかでお会いできると良いですね」
のんびりとしたその声音に、思考が一瞬閉ざされて、また開かれる。
「……………命拾いしたな。
俺が殺すって決めて、生き延びたのはお前で3人目だ。
覚えとけよ、次に会ったら………絶対に殺してやる」
唸るような声を発して、少年は壱號に連れられガイの後を追うように
消えていった。
あれだけあからさまな殺気をぶつけられたのは、初めてかもしれない。
黙って強く拳を握り締めた伍號を横目で見遣りながら、カカシは口を開いた。
「…あーあ、完ッ全に零號に目ぇつけられちゃった」
「えッ!?
伍號、死んじゃうの!?」
「姫……そう決め付けない方がいい。
もしかしたら伍號が返り討ちにするという可能性もある」
「えっと、可能性とか、もしかしたらとか、そういうレベルの話なんですか…?」
「ま、そうそう顔を会わせることもないから、大丈夫でしょ。
それじゃ急いで待機所に戻って荷物纏めておいで。すぐに里を出るよ」
「………え、ちょ、ちょっと待ってよカカシ先生!!」
頭を掻きながら言うカカシに、六號から驚いたような声が上がった。
里を出るということは、もしやあの任務がまだ生きているということか。
「あれより優先させる任務ができたって言ったじゃないか!」
「ああ、言ったよ。
だけどあの任務を中止するとは言ってないだろう?」
「屁理屈だ!!」
四號と六號の抗議をさらっと無視して、カカシは一時間後に待機所に
迎えに行くからと言い残すと、さっさと立ち去ってしまった。
残った子供達からは、深い深いため息。
だがどれだけ理不尽だろうが勝手だろうが、上官の言葉は絶対である。
「仕方無い……行こう、2人とも」
「もう…めんどくさいなぁ」
「そう言わないで下さいよ、姫。
これも修行です」
「伍號はいちいち暑苦しいよ」
「……ハッキリ言いますね」
四號といい六號といい。
仮面の内側で苦笑を漏らしながら、伍號は何気無くさっきまで
零號がいた場所を振り返った。
今にも喉元に喰らいついてきそうな目をして、彼は言った。
次に会ったら、絶対に殺してやる、と。
「……………望むところ、です」
そうぽつりと返事をするように呟いた伍號の背中が、ぞくりと震えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
壱號が待機所に戻って来て、驚いたことがひとつ。
入り口にあった死体が消えている。
それどころか、血の跡から臭いから、なにもかもがだ。
まるでさっきまでの出来事が嘘だったかのように、そこは普段どおりの
場所に戻っていた。
「…………ガイ先生…か?」
とはいえ割とすぐに自分と合流して零號を捜したのだ、実際は手筈を整えただけで、
実行したのは別の人間だろうけれど。
それにしたって手際が良すぎる。
何やってんだよ、入んねぇの?という弐號の言葉におざなりな返事をして、
壱號が寒気を飛ばすように両腕を手で擦った。
「怖ぇな、あの人」
<終>
何が書きたかったかって、とりあえずこういう背景設定だよというのと
0と5が出会った経緯を書きたかったわけです。
なのに3話目はキャラが一気に増えたので妙にごっちゃになった。反省。
なんだかガイ先生が謎の人で文章読み返して苦笑が漏れたよ。
でもまぁ、こんな具合でノリは表とあんまり変わらないのだけれど、
内に色んな思いだとか秘密だとか、そういうのを隠しててくれても
いいと思ったりするんだよね。
そういう意味ではカカシ先生の方がやたらオープンかもしれない。(笑)
カカシとガイについてはちょっと書きたい設定というか話があるので、
近い内に挑戦してみようと思います。
あと0(または2)と5がどうなるかは、これからの話。
でも実際はそっちよりも、くだらない小ネタばっかり浮かんでくるのが。
もう本当にどうしてくれようかと。
そして3は結局1度も書いてあげられなかった。ごめんね。
きっとその内ひょっこり出て来るんじゃないかと。(わぁ)
さーて、頑張りますか。