<第1の話>

 

 

 

 

とある建物の地下深くにある一室、火影を含む中枢部の者しか
知らない場所に、その機関は存在していた。
暗殺戦術特殊部隊養成軍。
物心ついた頃にその素質を見出された者だけが、その場所に立ち入る
ことが許されている。
暗部になるべく育てられている者達の、訓練所兼待機所といった
ところだろうか。
詳しくは分からないが、それは里のあちこちに点在していて、
知る限りでは、【朱(あか)】と【蒼(あお)】という部隊が
存在しているようだ。
もちろん、知られていないだけで実際はもっとあるのだと思われる。
それぞれの部隊に所属されているのは、担当の上官1名と部下に
3名の子供達。
基本的に暗部特有の偽名はまだ与えられておらず、ただ番号でのみ
認識され、番号で呼ばれている。
仮面の着用は義務とされていて、同じ部隊の者同士は別だが
他の部隊の者達の正体は明かされず、接触もほとんどないと言っていい。
通常はアカデミーに入り、下忍・中忍・上忍と通過して、選ばれた者
だけが暗部に入隊することができるのだが、此処に所属している
彼らは違う。
最初から『暗部に配属される』ことを前提として育てられるのだ。
その内容は主に、暗殺の技術。
生き残る術より殺す術、いかに素早く確実に相手を仕留めるか。
場合によってはいきなり戦場に放り出されることもしばしばある。
そんな過酷な状況を子供達は生き抜いて上を目指す、そんな場所だった。

 

 

 

 

 

 

【朱】

 

 

「ちょ……コレ、タチ悪ィぜ……」

待機所の入り口で、嫌なものを見た。
とはいえ本人にしてみれば見慣れたものではあるのだが、
それでも思わず眉を顰めて足元のそれを蹴飛ばす。
それは、ズタズタに引き裂かれた、恐らくは人間であった筈のもの。
忍装束を着ているから、多分見張りに立っていた上忍だろう。
「こんなことすんのって……まぁ、アイツぐらいしか……」
「どうした、壱號?」
「あ、いいトコロに来てくれた。
 ちょっとコレ見てくれよ、コレ」
後ろから上官に声をかけられて、ふりむいた少年が自分の
足元を指差す。
その方を見遣って、上官が思わず額に手をやった。
「………まさか、零號か…?」
「アイツっきゃねーだろ、こんな食い散らかし方するヤツは。
 弐號はこんなコトしねぇし、参號は今留守だもんなぁ」
「で?零は逃げたのか」
「……うーん、逃げたっぽい、な」
ひょいとドアを開けて中を覗く。
もちろんだがそこは無人で、閑散とした空気が広がっている。
感じからして、随分と前に外へ出たのではないかと思われた。
「だから、見張りは上忍じゃダメだっつったろ?」
「………暫く弐號のままで安定していたからな、甘かったか」
「早いトコ捜して捕獲しねぇと、至るところで無差別殺人だぜ?」
「冗談じゃない!!しかし…俺とお前だけじゃ捜すにしても
 効率が悪いな………助っ人を呼ぶか」
「は?助っ人!?
 ……参號でも呼び戻すのかよ」
「そんな暇などあるか。
 不本意だが………【蒼】に連絡を取る」
「あ、なるほどね、向こうの上官はカカシ先生なんだっけ」
「俺も連絡をつけられ次第、捜索に出る。
 壱號、お前は一足先に出て始めてくれ」
「ったく………めんどくせぇな」
上官の指示を受け、壱號は仕方なく肩を竦めて仮面を手に取った。
ため息もそこそこに仮面を被ると、まだ地面に転がったままの
死体を避けるようにして階段を上がっていく。
「とりあえず里の東は【蒼】に頼む。
 お前と俺は、西だ」
背中にかけられた言葉に、壱號はへいへい、と投げやりな返事を
しながら暗闇の広がる屋外へと出た。

 

「りょーかい、ガイ先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【蒼】

 

 

「バ…ッ、お前なにやってんだ、バカじゃないの!?」

暫く無線機で何やらやり取りをしていたらしい上官が突然怒鳴り出して、
次の任務のための打ち合わせをしていた子供達が、思わず言葉を切り
上官の方へと視線を向けた。
自分達からは背中しか見えないが、その気配で察するに、怒りより呆れ、
呆れより焦り、そんな具合に見える。

 

「………で?いつから居ないんだ?
 ああ…それなら知ってる、じゃあ大体3時間てところか。
 それじゃそう遠くまで行ってないだろうな。
 だから目を離すなって言ったんだ、馬鹿野郎が」

 

「珍しいね、カカシ先生があんなに怒ってるの」
「どうせ相手はガイだろ」
「ま、言えてますね。
 とりあえずこっちを先に決めちゃいましょう」
机に広げられているのは、里よりずっと北方の地図だ。
今回は他国同士の戦場に出るという任務。
見知らぬ土地ということもあり、事前の作戦会議と準備はいつもより
入念に行う必要があった。
「…で、だから俺がこっちから攻めるから、
 伍號はそっちで………姫は、ここだ」
「え、私こっちがいいなぁ、伍號の方」
紅一点の少女がついと指差した先に、置いてあるのは敵軍の印に
していた黒の碁石。
「でも姫、こっちは敵陣のど真ん中ですよ?」
「いいの、そこが」
「……どうして?」
伍號がきょとんとした目で訊ねるのに、六號は目を三日月のように細めて笑った。
「だって、そっちの方がたくさん殺せるじゃない?」
「フン………モノズキだな」
「なんとでも言って」
「まぁ、僕は拘りませんから、それなら交替しましょう」
自分達の印に置いていた色紙で折られた鶴の、桃色と緑の位置を入れ替えようと
伍號が手を伸ばした時。

 

「勝手なことばかり言うな!!
 ああ、………ああそうか、分かった、やってやればいいんだろ!?
 そのかわりお前、この落とし前は後できっちり払ってもらうからな!!」

 

そんなカカシの怒鳴り声が響いて、思わず伍號は机の上に突っ伏した。
弾みでバラバラと色んな方向へと飛び散っていく碁石に、六號が愉快そうに
笑い声を上げ、四號はモロにしかめっ面を見せたのだった。
「何やってるんだ、バカ」
「バ、バカとか言わないで下さい…」
吃驚した、と胸を撫で下ろしながら伍號がムクリと身を起こす。
そこへ乱暴に無線機を置いたカカシが近付いてきた。
「悪いお前ら、そっちよりも優先してもらいたい任務ができた」
「……は?」
「え?」
「えぇ〜?」
訝しげに眉を顰めるのは四號と伍號、その隣で六號は残念そうな声を漏らす。
机にあった地図に目を向け、邪魔にならないよう折り畳まれているそれを
もう少し広げて木ノ葉の里まで見えるようにすると、カカシはトンと机に
手をついた。
「急を要する特殊任務だ、心して聞いてくれ。
 お前達…【朱】という部隊は知っているな?」
「確か……此処と同じ目的の部隊だと」
「ご名答。お前達が4〜6までの番号を持っているのと同じで、
 そこには1〜3の番号を持った奴らがいる」
「…で、それが…?」
「その内の1人が、見張りに立っていた忍を殺して逃げ出した」
「それを捕まえろってこと?」
「ああ、その通りだ。
 ただし………今回ばかりは絶対に殺すな」
渋い顔で言うカカシに、子供達はてんでに首を捻った。
事実、仲間殺しは大罪だ、見つけ次第殺害されても文句は言えないぐらいの。
とはいえ上官の言葉は絶対である、それ以上問い詰めようとはせずに、
子供達は各々仮面を手に取った。
「それで?
 脱走者は何番のヤツなんだ?」
「……何番目でもない」
「どういう……意味ですか?」
戸惑った声で訊ねてくる伍號の頭を軽く撫でて、カカシも共に出るべく
仮面を手に取った。
「そいつの番号は零(ゼロ)。
 全身に朱いチャクラを纏っているから、会えばすぐにそいつだと分かる。
 九尾の力を自在に操る化け物だ……。
 恐らく今も、脱走したという意識はないだろうな。
 ただ、殺す相手を捜して彷徨っているだけだ。
 だから……先にひとつ、言っておく」
九尾の化け物を暗部に置くのは、最初からカカシとガイは反対だった。
いつかきっと、自分達ですら手に負えなくなるに決まっている。
なのに強大な力を欲した上層部は、それを許さなかった。
あくまで兵器として、九尾を飼い慣らせと。

 

「深追いは禁物、決して油断はするな。
 気を抜いたら最後………死ぬのは、お前達だ」

 

分かっていたのだ、こんな面倒が起こることなんて。

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

森の中を、木から木へと跳ねるように渡り歩く。
この辺りには誰も居ない、確か見回りの忍が来る頃だと思っていたのに。
中心街へ戻った方が良かっただろうか。
「…………あ、」
月の光から身を隠すようにして、足を止めた。
前方に人の姿を確認したのだ。
見たところ、黒い装束を纏い顔には面を被っている。
気配で自分が置かれているチームの者でないことは分かった。
同じチームの者に手をかけたりはしないことにしている。
それは命令でなく、自分で決めた事だ。
殺してしまうと自分の立場が危うくなるし、それ以上に気の良い奴らで
気に入っているという理由もある。
捜しているのは『自分のチーム以外の忍』、それが誰だっていい。
ちょっとだけ考えるようにしてから、くつくつと低く笑い声を漏らす。

 

 

「見ィつけた。」

 

 

被っていた仮面の内側で、朱いチャクラを纏っている少年が
ニィ、と笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

<続>

 

 

 

 

ヤ、ヤバイ…今までと雰囲気の違う話を書いてみようと思ったのに、
ついつい気を抜くと今までと同じテンションに持ち上がりそうで
えらいことになりそうになりました。ギャグはあかんよギャグは。(汗)

とりあえずはとっかかりの話を書いてみようと思います。
零と弐のナルトの違いを上手く出せるといいなぁ。

カカシとガイに対する呼び名をどうするか迷ったんですが、
とりあえず此処でも先生は先生でいってみようかと。
単に書いてる自分が違和感ありまくりで耐えられなかっただけです。(苦笑)

 

それでは、少しでも楽しんで頂けることをお祈りしつつ。