<Under present condition, there is not an end.>

 

 

 

 

これはまだイルカが下忍時代の話だ。
日々修行をこなす傍らで、上司にちょっとしたお使いを頼まれ
アカデミーへ続く道を歩いていると。

 

「イルカー!!イルカくーん!!
 たーすーけーてーーーー」

 

急に呼び止められて、イルカはびくっと身を竦ませた。
キョロキョロと辺りを見回しても誰もいない。
「どこ見てんのさ、こっちこっちー、上だよ上ー!!」
「上って……………あッ、カカシさん…!?」
言われるままに視線を持ち上げると、小道の端に鎮座しているお地蔵様の
真上、縄で括られたまま木からぶら下げられているカカシの姿を目にして
イルカが思わず声を上げた。
「ちょ、カカシさん、一体どうしたんですか!?」
「悪いけど、下ろしてくんない?」
「そ、それは構いませんが……」
右足につけていたホルスターからクナイを引っこ抜くと、イルカは軽く
木の上まで駆け上がっていく。
そこから下を眺めてみれば、意外と高いところから吊られているのだと
いう事が知れた。
「………今度は何したんですか、カカシさん」
「今度とか、人聞きの悪いこと言わないでくれる?」
「ああ、自覚が無かったんですね、すいません」
「言ってくれるじゃないの」
普段から任務以外ではガイと2人つるんで悪さばかりしている男だ。
てっきり今回も悪さが見つかってお仕置きをされていたのだと思ったのだが。
「そういえば、ガイさんがいませんね。
 いつもは近くに一緒にぶら下げられている筈なのに……」
ぶつりと縄を切ってやりながらイルカがそう言葉を漏らしていると、
地面に足をつけたカカシがハッと我に返ったように、まだ木の上にいる
イルカへと目を向けた。
「そうだ!ガイ!!
 イルカくん、来る途中でガイを見なかったかッ!?」
「え…?いいえ、今日は見かけていませんが……」
「……くそ、このままじゃマズイ…!!」
「ガイさんがどうかしたんですか?」
木から飛び降りてきてイルカがそう気遣わしげに声をかけると、カカシは
アカデミーに向かうのとは反対方向の道の向こうへと視線を向けたままで
小さく舌打ちを漏らした。
「………最悪なのに捕まった、このままじゃアイツの貞操の危機だ!
 一刻も早く助け出さないと……あ、助けてくれてありがとね。
 それじゃ!!」
したっと片手を上げると、カカシはそのまま大急ぎで走って行った。
その後姿を見送りながらイルカがはぁ、と息を漏らす。
最悪なのはともかくとして、貞操の危機とは一体何事か。
まぁどっちにしたって、またくだらない事が起こっているだけに違いない。

 

(………あ、お使い済ませないとな。)

 

割と冷静に判断を下したイルカは、クナイをホルスターにしまって
またアカデミーへと続く道を急いだのだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

「……………で、此処で句点。」
「……。」
「ん?意味が分からんかったかのォ?
 まるだ、ま・る!!」
「も………もう、勘弁してクダサイ……」
温泉街にある、とある宿屋の一室にガイは拉致されていた。
ちなみに攫ったのは、伝説の三忍の名で知られている、自来也である。
アカデミー近くでカカシと2人、くだらない雑談をしていたところを
文字通り風のようにやってきたこの男に攫われて来た。
もちろん一瞬すら抵抗するスキも無く、我に返った頃には
どこか遠いところからカカシの喚く声が聞こえただけで。
連れて来られた場所が此処で、あれよあれよと言う間に窓際に置かれていた
文机の前に正座させられていた。
目の前には、山積みにされた原稿用紙。

『今から儂が言う通りに書け。』

言われるままに筆を取り、そしてその直後にガイは死ぬほど後悔する事になる。

 

 

よもやまさか、自分が原稿の代筆をすることになるとは思わなかった。

 

 

「じ、自来也様、どうして俺が……!?」
「ん?そういや言って無かったのォ。
 実はちと色々あって、右手を怪我してしもうてな。
 とはいえそろそろ締め切りも近く、のんびり治るのを待っておる暇は
 無くてのォ。
 ま、かる〜い人助けと思って、な?」
軽い人助けで官能小説の代筆をさせられては、たまったモンじゃない。
聞かせられるだけでも拷問に近いのに、それを書けと言うのだから自来也は鬼だ。
「こういうのは、むしろカカシの方が……」
「ん?アイツは駄目だ。字が汚いからのォ」
「あの、俺、でも、まだ未成年なんで……」
「んん?
 ………ガイよ、お前………いくつになった?」
「まだ15ですッ」
「大丈夫大丈夫。
 儂がそのぐらいの歳にはもう解禁だったからのォ」
大丈夫なわけあるかー!!と、叫び出したいのを必死に堪え、ガイは筆を握り締めた。
とにかく何とかして逃げ出さないと。
だがしかし、生半可な方法が通用する相手じゃないところが痛い。
「まぁ良い。とにかく今は手を動かすんだのォ。
 締め切りはすぐソコだからな」
「うう……」
「こっからが大事なシーンだからな、手を抜くんじゃないぞ?」
「単なるエロシーンなだけじゃないか…!!」
「む、お前はほんっとに分かっとらんのォ。
 そこにどれだけ重要なものを篭めなきゃならんか知らんのか?」
「知りたくもありません!!」
「ふぅ………いちいち文句の多い奴じゃのォ。
 ……そうか、お前まだ……」
「な…ッ、何なんですか…?」
「童貞だなッ!?」

 

  ゴン。

 

自来也の言葉に、ガイは目の前の机にしたたか額を打ちつけた。
「な、な、何を…ッ!?」
「その動揺が何よりも動かぬ証拠、ってヤツだのォ。
 だからこんな事にもいちいち過敏に反応してしまうんだ。
 よし、それじゃこれからひとつ女子でも……」
「それアンタが行きたいだけでしょうがッ!?」
善は急げとガイの腕を取って立ち上がろうとした自来也が、ふいに
窓の外へと視線を向けた。
太陽の光を受けてきらりと光るそれは、真っ直ぐに自来也を狙っている。

 

 

「セクハラ撲滅運動ッ!!」

 

 

飛んできた数本のクナイを、だが自来也は左手で一本を軽く受け止めると、
残りをそれで叩き落してしまった。
「フッ……まだまだ甘いのォ」
「やーっと見つけましたよ、自来也様」
トン、と窓の縁に足をついて、やってきたのは数刻前に木にぶら下げたはずの
カカシで、自来也は珍しそうに眉を上げた。
「おかしいのォ。
 お前はしっかりと吊るし上げてきたはずなんだが……」
「ええまぁ、善意の協力者がいましてね」
「ッ………カカシ!助けてくれ!!」
思わず自来也の傍でガイがそう訴えると、カカシはにこりと笑って
ひらひらと片手を振ってみせた。
「で、自来也様。
 ガイを攫って一体何をさせようってんです?」
「…………。」
言いたくないのか視線を逸らして黙ってしまった自来也だったが、その質問には
ガイが答えてしまった。
「さっきからいかがわしいエロ本の代筆をさせられてるんだ俺は!!」
「いかがわしいとか言うな!!失礼な奴っちゃのォ!!
 イチャパラ最新作の代筆だッ!!光栄に思わんか!!」
「なにいぃぃぃぃぃッ!?」
驚愕の声を上げたのは、ガイではなく、カカシだ。
「イ……イチャパラの最新作……!?」
「あぁ、そういえばお前、18になってないから書店では買えないけど、
 闇ルートで手に入れたとかって読んでいたんだったか……?」
「なにッ!?
 お前、読者だったのか……」
ガイと自来也が揃って視線を向けると、何やら肩をぷるぷる震わせてぶつぶつと
呟いていたカカシは、突然その場にすっくと立ち上がった。
びしっと人差し指を突きつけた相手は、何故かガイ。
「ガイ!!お前、ずるいぞッ!!
 誰もが待ち望んでいる最新作を、お前が真っ先に読むなんてッ!!」
「ずるいわけあるかーーー!!!
 どこをどういう風に曲解したら、そんな結論に行き着くんだカカシ!!」
「うるさいッ!!
 俺は絶対にお前が代筆するなんて認めない!!」
ぎゃんぎゃんと吠える2人を小動物のようだなと思いながら、自来也は
黙って眺めている。
気がつけば子供の喧嘩だ。
だが、2人とも腐っても忍者、ただの子供の喧嘩とは訳が違う。
「お前が代筆するぐらいだったら、俺がやるッ!!」
「なにおうッ!?
 カカシは俺より字が下手だからな、お前には無理に決まってる!!」
「言ったな……ガイのくせに……!!」
元々何の目的で来たのか、カカシはどうやらすっかり忘れてしまったようである。
売り言葉に買い言葉、そろそろだのォ、と呟いて自来也は少しだけ後ろに下がった。
宿屋でドンパチするのだけは避けてほしいところなのだが。
カカシが口元のマスクを下にずらすと、親指を歯で傷つけ印を結ぶ。
窓の縁から飛び降りざまに、畳の上にトンと両手をついて。
「口寄せの術ッ!!」
呼び寄せられて出てきたのは、8匹の忍犬。
彼らに指示を出すために、カカシはびっと人差し指を伸ばした。
今度は、自来也の方へ。
「GO!!」
「なんとッ!?」
8匹の犬に飛び掛られ、咄嗟に対応しきれなかった自来也はそのまま
畳の上へと捻じ伏せられた。
すかさずカカシがガイの腕を取って、再び窓の縁へと足をかける。
「じゃあ自来也様、そういうワケでガイは返してもらいますんで。
 新作楽しみにしてますから、頑張って下さいねー」
「助かった、カカシ!!」
「なんの」
2人一緒に窓から退散していった姿を眺めて、自来也が犬まみれになりながら
畳の上に頬杖をつく。
なるほど、あそこでくだらない喧嘩を始めたのは、油断を誘うためか。
だがこちらとて、ただ単にやられたわけではない。
彼らこそ気付いていなかっただろう。
外では自分の影分身が、逃げ出したところを捕まえるために待機している事に。

 

「なかなかやりおるな………とはいえ、まだまだ、だがのォ」

 

パックンの喉元を指で撫でてやりながら、零れたのは苦笑だった。

 

 

 

 

 

 

数時間後、通りがかったイルカが再び木に吊るされたカカシを見つけ、
話はまたふりだしに戻る。

 

 

 

 

 

 

<END>

 

 

 

 

 

 

お、おかしい……気がついたらこんな展開になってた……!!(汗)
これじゃカカシ&ガイvs自来也だよ。しかも何故普通に出てるのイルカ先生…。
なんだかもう、ほんとに色々謝りたいコトでいっぱいです。ごめんなさい!!(平伏)

でも、実際書いててすごく楽しかったのです。
普段カカシとガイが子供達を手玉に取ってる姿ばっかり書いてたから、
たまにはお前達が振り回されてみろ!みたいな。(笑)
あの2人を振り回せる相手なんて、三忍か火影かぐらいしか思いつかないよ…!!

あと、不思議なぐらい普通に出てきたのがイルカ。これは私もビックリです。
よく分かってないままに、とばっちりを食ってるというか、巻き込まれてるといいなぁ。
イルカ先生は「……面白い人たちだなぁ。」ぐらいの淡白さで見てるといいよ!!

自来也さまは、カカシやガイの事をずっと昔から気にかけてるとイイと思う。
たま〜に木ノ葉に帰ってきては、2人をからかいつつ力を試すんだ。
強くなってく2人を見て内心喜んでるといいな。
でも一番の目的は、からかって遊ぶことなんだけどね!

 

20万ヒット企画リクエストより頂きました、
「自来也がガイをからかって遊んでる的なの(+カカシも)」、任務完了。
自来也さま、ガイどころかカカシすらもからかって遊んでますが……。(汗)
しかも(+カカシ)というより(+イルカ)ってカンジですよねコレ。
リク外のキャラまでプラスワンしちゃってすみませんでしたー(^^;)
ともあれ、リクエストありがとうございました!!