任務の入っていない、穏やかな昼下がりのことだ。
ここのところ忙しくて部下達の修行を見てやれてなかったなと思い、
演習場に顔を出してみるかと思い至ったところで、唐突に横槍が
入ってきたのだ。
ガイの部屋の玄関が慌しく開けられて、飛び込んで来たのは。
「お、お前………砂の……!?」
砂隠れの上忍、そしてつい先日に風影に就任したと聞いた、少年。
驚きを隠せず思わず指差して叫ぶと、我愛羅を連れてやってきた
バキが慌てた風にガイの口元を押さえて、黙れ、と低く唸った。
何事かは分からないが幾分声量を抑えガイが訝しげに尋ねる。
「なんなんだ、いきなり……」
「すまんが、頼みがある」
「頼み…?」
バキの様子からしてあまり良い予感はせず、ガイはやや引き攣った
表情でその続きを促した。
彼は、少し逡巡した後に。
「我愛羅を、暫くの間ここで匿ってくれないか」
全く予想もしてなかった言葉に、ガイの思考は真っ白になったのだった。
<The changing world flows.>
「ちょ、ま、待て!!
どういう事なんだ!!」
唐突な出来事についていけなかったガイは、かろうじて手を挙げて
それだけを口にする。
いつの間にやら部屋の隅で座り込んでいる我愛羅に目をやって、
バキが苦々しく口を開いた。
「………我愛羅が風影に就任したのは知っているだろう?
実は今、砂にはそれを快く思ってない奴らがいてな…。
そいつらが最近になって本格的に動き出したんだ。
……我愛羅の暗殺のためにな」
「暗殺…!?」
「まぁコイツのことだから、そんな奴らなど簡単に殺せるんだろうがな、
今は……里の中でそんな風に揉めたくはない」
「それは分かるが……それと俺と何の関係があるんだ!?」
我愛羅とは反対側の隅に陣取り大人2人が肩を寄せ合ってひそひそと
言葉を交わし合う姿は見ていて少々滑稽ではあるが、じっと自分達に
目を向けている我愛羅自身は、先ほどから一言も声を発していない。
「俺を含め、我愛羅に味方している忍達が今、内部の人間の中で
アイツに反感を持ってる奴がいないかどうか洗っている最中だ。
敵意を持ってる奴は全員幹部から外す方向で考えている。
全部の準備が整ったら……また、迎えにくる。
なに、そんなに時間はかからんよ」
「だが……それでどうして俺のところに……」
「色々考えたんだが、」
独り言のように呟きながら、しゃがみ込んでいたバキが膝に力を入れて
立ち上がる。
入り口のドアとは向かいの位置にある窓へ近付き、辺りの様子を少し
探ってから、中が見えないようにカーテンを引いた。
「恐らく此処なら、バレやしまい」
元々、この自分達の関係自体、偶然の末の腐れ縁みたいなものだ。
ナルト達を部下に持つカカシならともかく、恐らく何処をどう調べても、
ガイのことは我愛羅を匿うのに頼るような相手に思えないはず。
「一週間もあれば片が付く。
その事にまた迎えに来るから……頼んだぞ」
言いたい事だけ言って、バキはまた玄関から出て行った。
残されたのは木ノ葉の熱血上忍と、無口な砂隠れの風影だけ。
どうしたものか、と困ったように恐る恐るガイが視線を向けてみると、
我愛羅はやはり何も言わずにじっとこちらを見ているだけだった。
(………笑わない子、だな…)
感情がないわけでもないだろうに、それが上手く表現できないのだろう。
来た時も、置いていかれた時も、今こうやって2人でいる時だって、
一度たりともその表情が変わった事はなかった。
以前にも色々あって我愛羅を含む砂隠れの忍とは少々の縁があるが、
その時は自分の班の子供達に任せていたので、直接こんなに間近で
接した事は無い。
感情が凍りついた、ただの殺戮機械。
過去、我愛羅という少年はそんな評価を受けていたように思う。
そんな人間は他にも、ガイには少し心当たりがあった。
少なくとも、昔のこの世界はそういう所だったということだ。
だけどガイは知っている、そんな人間だって変われるのだということを。
だからこそ、我愛羅だって風影を目指そうとしたのだから。
「まぁ………置いていかれたものは仕方無いな、我愛羅くん」
「………?」
軽く頭を掻きながら何気無くそうガイが言うと、少しだけ不思議そうな
視線で我愛羅は見てきた。
それに親指を立て片目を瞑って返すと、その手を伸ばして我愛羅の頭を
ぐしゃぐしゃと撫でつけたのだった。
「ゆっくりして行くといい。
暫くの間、宜しくな。我愛羅くん」
「……………あ、あぁ…」
ぼさぼさになった髪もそのままに、酷く驚いたような目をして我愛羅は
そうとだけ口を開いた。
あまりにも唐突で、それだけの衝撃を受けたのだ。
誰かに頭を撫でられたのなんて、初めてだったから。
<NEXT>
どう考えても1本では終わりそうになかったので、シリーズものに
入れることにしました。
まぁ、バキが絡んでくるなら、7班+ガイ班+砂班のシリーズを
前提に置いたほうが書きやすいということもありますし。
今回は一応、短めの小噺をちょっとだけ繋げたらおしまいになると
思います。書きたいシーンがいくつかあるので、それをノルマに
頑張りたいと思います。
実際、ガイにとって我愛羅ってどういう存在なのかよく解らなかったり
するんですけど。
原作の展開考えると、愛弟子に怪我を負わせた子であったりしますしね、
内心は複雑なんじゃないかなぁと思ったりもしますが、リーが復活してからは
治ったんだしもういいやとか思ったりするのかなぁ、とも。
終わりよければというよりは、喉元過ぎればタイプだよね、どう考えても。(笑)
それではまた、少しの間お付き合い下さいませ(^^)
20万ヒット企画リクエストより頂きました、
「ガイ宅に居候我愛羅。(頭なでなで目標!)」、任務遂行中。
よく考えたら、頭なでなでは既にクリアしているじゃないか…!!(笑)
ともあれ、このシリーズまとめてがリク作品ということで。
リクエストありがとうございました!!