最近よく、カカシと修行をつけるようになった。
彼曰く、自分は彼とよく似た性質を持っているらしい。
それに関する自覚は無かったが、とにかく今よりもっと強くなれる、
そう考えれば自然と組手ひとつにしても身が入るようになった。
教えてくれた技は、たったひとつ。
千鳥と呼ばれる、チャクラを放出して繰り出す突き。
必要なのは、体術だった。
<You gave the nerve not to give up.>
松葉杖を隣に放って、ベンチに座り込んだままぼんやりと空を眺める。
小鳥が可愛らしい囀りを零しながら飛んでいくのを見ていると、
ふいに声がかかって視界を黒が遮った。
「よォ」
「………サスケくんじゃないですか」
びっくりした、と小さく零してリーは緩く胸を撫で下ろす。
別に気配を消していたわけでも驚かせようと思っていたわけでもない、
単に彼がぼんやりとしていただけだ。
「どうしたんですか、僕に何か?」
「別に、用があったわけじゃない」
リーの問い掛けに、何でも無いようにさらっとそう答えて、サスケは
覗き込むようにしていた身体を僅かに離した。
アカデミーの屋上に位置するテラスでリーの姿を見つけたのは偶然だ。
ただ、空を見上げているその背中が、どこか少し、気に掛かって。
「何……してたんだ」
「いえ、別に何もしてません。
少し……ボーっとしてたみたいです」
その答えに、ふぅんと頷きながら、サスケは傍にあった松葉杖に
何気無く手を伸ばした。
縦にしたり横にしたりくるくる回してみたり、まるで初めて見るもので
あるかのように珍しげに見遣るサスケを、リーが首を傾げながら見つめる。
「……どうしたんですか、サスケくん」
「何が」
「何だか……僕がこういう風に言うのもおかしいんですけど、
いつもと少し、違う気がします」
いつも、と言い切ってしまうほど、リーはサスケと一緒に居るわけではないが、
それでもこんな風に用も無いのに近くに居て、まるで暇を持て余しているような
行動を取っているサスケが、少し不思議に見えたのだ。
「そういえば…こないだの中忍試験の時、ガイ先生とカカシ先生が
話しているのを聞きましたよ。
キミは、僕の体術をコピーしたらしいですね」
「まぁな」
カカシが術を教える際に言ったのだ、ポイントはチャクラの密度と突きのスピード。
特にスピードは速ければ速いほど、技の威力が増すという。
速さ、と聞いて真っ先に浮かんだのはリーのことだった。
今まで戦ってきた中で、彼は一番速く、そして一番柔軟だった。
それを告げれば、予選の時に真似たのも知っていたのだろう、カカシはあっさりと
頷いてくれたものだ。
そのカカシも、技を編み出した時にはリーの師であるガイの体術を真似たらしい。
(今まで何度か勝負したけど、スピードだけはガイに1度も勝てたこと無いんだよね)
カカシはそう言って呑気に笑っていたが、実際修行といえばずっと体術ばかりで、
写輪眼を持ってしても、なかなかあっさり習得とはいかなかった。
体術はただ写せばいいというものではない、体がついていかなければ意味が無い。
血継限界どころかマトモな術すら使えないという落ちこぼれの人間が、あそこまで
這い上がるには想像もつかない程の努力があったのだろうと思う。
そして湧き上がったのは、ロック・リーという人間に対する興味だった。
「サスケくんが何を考えているか、よく分かりません」
「そうだな……俺も、アンタがよく分からない」
「え?」
きょとんとした視線を向けると、サスケはリーの前に片膝をついて、ずいと
松葉杖を突きつけた。
「あれだけ俺を翻弄していたアンタが、今はこんな棒きれ一本に頼っている」
中忍試験でのリーの試合を見ていなかったから、試合中に何が起こったのかは
よく知らないが、ナルトが苦く呟いていたのを覚えている。
もう、忍としてはやってけなくなっちまった、とナルトは言っていた。
「治らないのか?」
「……そんな事は……ないと、信じてます」
治ると言い切れないのが辛いところなのだろう、リーはそう小さく答えると俯いた。
体術しか使えなくても、忍として一人前になれる事を証明するつもりだった。
なのに今自分はこのザマで、唯一の体術もあっさりとコピーされてしまった。
努力は無駄じゃないと思いたいが、先に進む事もできない。
「僕は……こんなところで、何をやっているんでしょうね…」
「………?」
「サスケくんもナルトくんも、どんどん強くなっていく。
これじゃ、ネジに勝つどころか、キミ達にだって追い抜かれてしまう。
僕は………どうすればいいんでしょうか。
僕は………やっぱり、ここまでの人間なんでしょうか」
サスケの表情が僅かに強張ったのを、俯いたままのリーは見ていない。
よく見れば、松葉杖の持ち手に血がこびり付いているのに気がついたのだ。
それは治療を受けて塞いだ筈の傷が開いたという事に他ならない。
では、何故そんなことになった?
「アンタ……ホントは諦めてないんだろ」
「え…?」
「だから……こんな………」
「サスケくん?」
ゆるりと顔を上げたリーが、直後に頬を掠めた風に大きく目を見開く。
ガッと抉るような音をさせて、サスケが松葉杖の先端を力任せに壁に突き立てたのだ。
「ふざけんなよ……俺はまだアンタに勝ってねぇ」
「……っ、」
「アンタは俺の前に立ちはだかった最初の壁だ。
越える前に勝手に崩れるなんて、許さねぇぞ」
ぽかんとした表情で見つめていたリーが、数度瞬きを繰り返して。
「……もしかして、励ましてくれてたりするんですか?」
だとしたら、非常に分かり難い。
けれどもそう訊ねた直後に頬を朱で染めたサスケを見る限り、どうやら
図星だったのだろうと思う。
そういうところは割と、分かり易い。
思わず口元に手をやって笑いを堪えていると、やや気を害した風に睨まれた。
「いえ、嬉しいですよ。
ありがとうございます、サスケくん」
「……フン」
視線を外へと向けたサスケが、何かを見つけて僅かに眉を顰める。
小さく漏れた舌打ちと同時に外から聞こえてきたのは。
「あっ、サスケくん見ーっけ!!」
「ちょっ…いのぶた!!出しゃばんじゃないわよ!!」
うるせーのが来たな、と呟くと、サスケは仕方無さそうに頭を掻いた。
「人気者ですね、キミは」
「興味ねぇよ」
肩を竦めてみせると、リーがくすくすと笑みを零す。
そうだ、誰にも興味なんてない。
初めて自分が興味を示したのは、今目の前にいるこの男だけだ。
「………待ってるから、絶対に戻って来いよ」
そう告げると、サスケは足早にそこを去って行く。
どうやら彼女達に付き纏われるのは御免らしい。
モテるのに勿体無いですね、と呟くと、リーは柔らかく微笑んだ。
自分一人でもがいているだけだったら早々に力尽きていたかもしれないが、
だが、今は違う。
這い上がった先で、待ってくれている人がいる。
待つと、言ってくれた人がいる。
だから。
「絶対に………諦めませんよ、僕は」
誓うように呟いた言葉は、夏の風に吹かれて空に消えた。
<END>
なんかネジリで書いた話とやや内容が被ってる気がする…。
まぁ、それはそれで比べてみても面白いかもしれません。
どうやらサスケはネジに比べると物凄く暴力的なようです。
…って、私は書きながら思い知りました。(笑)
それはそれでたまに書く分には面白いかもしれませんが。(苦笑)
ああ、きっとネジに比べて冷静さが足りないんだな。うん。
しかしこのネタを引っ張ってサスケ奪還任務あたりの話を書いたら
なんだかシリアスで重くなりそうな気がします。
その辺りはご想像にお任せしますけれども。ネタ振りだけしてみる。(笑)
20万ヒット企画リクエストより頂きました、
「サスリー」、これにて任務完了。
リクエストありがとうございました!!