ロック・リーという少年が言ったように、確かに待遇そのものは悪くなかった。
日に3度の食事もきちんと出てくるし、毎朝リーが牢の鍵を開けてくれたので
外に出ることだってできた。
とはいえ、砦の門には常に見張りが立っていたので逃げ出すことは
諦めた方が良い、割と早い段階でナルトはそう判断をしていた。
元より、この場所は自分にとって少しずつ居心地の良い場所となっていった
ということもある。
自由ではないが、不自由でもなかった。
「ナルトくん、一緒に修行しましょう!!」
ナルトの事を気に入ったらしく、何かにつけてリーもそう声をかけてくる。
最初の内こそ監視目的か何かじゃないかと疑ったものだが、何度か繰り返す内に
単に彼は修行が好きなのだということを知った。
なんでも、あのガイという男に少しでも追いつきたいのだという。
そういえば最近、自分を拾った2人の姿を見ていない。
何処に行ったのかと問えば、お出掛けです、というリーの簡潔な答え。
木ノ葉の主要拠点にいる三代目火影に定期報告をしに行ったらしい。
場所までは聞き出せなかったが、そのついでにサスケの行方も捜している
ようなので、だから帰りが遅いのだと聞いた。
馬鹿正直にそう教えたリーは、後でネジから拳骨を食らっていたが。
<The long long story which begins from here.>
夜になると冷える牢の中は、毛布を3枚被ってもまだ少し寒い。
おかげで寝付きの悪かったナルトは、人の存在に気づいて目を開けた。
「……誰だってばよぅ……こんな時間に…?」
「起きろ、ウスラトンカチ」
「んあ?
…………サ、サスケッ!?」
「しっ、声がでかい、バカ!!」
牢の扉の向こうでしかめっ面を見せたまま言うのは、共に音隠れを
逃げ出した仲間だった。
毛布を跳ね除けるようにして立ち上がると、ナルトは鉄格子の
傍まで大急ぎで駆け寄る。
まじまじと眺めるが、やはり正真正銘サスケ本人だ。
「な、なんで此処が分かったんだってばよ」
「木ノ葉の拠点近くを偵察していたら、此処に音隠れの捕虜がいる
という話を聞いたんだ。
まぁ、十中八九お前だろうと踏んでな」
「助けにきてくれたのか!?」
「バカ、お前にベラベラと余計な事話されちゃ困るんだよ」
「とにかくこっから出してくれよ!」
「待ってろ」
腰元のポーチから針金を一本取り出すと、サスケは簡単に牢の南京錠を
外してしまう。
サスケがふと感じるのは、この管理の甘さだ。
まだ見習いとはいえ一介の忍者である以上、単純な南京錠だけの牢など
あっさりと逃げ出せてしまうだろう。
おまけにナルトは中で拘束されていたわけではない。
更に周辺に見張りがいるわけでもない。
忍者相手にあまりの緩さだと思ったのだが。
「おいナルト、お前なんで此処から逃げなかったんだ?
これぐらいの鍵、外せただろう」
「………へ?」
手の上で南京錠を跳ねさせながらサスケが問うと、ナルトはきょとんと
した目を向けてくる。
まるで考え付きもしませんでしたと言いたげな様子に、自然とサスケは
がくりと項垂れていた。
「……お前に聞いた俺がバカだった。
ああそうだ、俺がバカだったんだ」
「なんかムカつくってばよ、それ」
「もういい、とっととズラかるぞ」
「おうッ!!」
ぐっと拳を握り締めて言うナルトに、ついて来いとサスケは顎で廊下の
先を示した。
牢は砦の地下1階にあり、そこには窓など当然ながら存在しない。
そこから1階に上がるのは廊下の先にある唯一の階段を使うより他は
無いが、故に逃げ場もないという欠点がある。
せめて1階に出て、砦の外に出るまでは誰にも見つからずに行きたい
ところだ。
階段の先に気配が無いことを確認してから、サスケはナルトに手招きをすると
一気にそこを駆け上る。
だが、2人は揃ってその場に身を竦ませた。
「さて、大人しくしてもらおうか」
真正面に立って腕組みをしているのは、カカシとガイの2人。
いつの間に戻っていたのか、ナルトは全然知らなかった。
そしてよくよく周囲を見回せば、ネジやリーを始めとする木ノ葉の忍が
あちこちに待機している。
逃がすつもりは全く無さそうな気配。
「あんまり大人を怒らせるモンじゃないな。
ナルトを助けに来たってコトは、どうやらお前がサスケだな?」
「…………。」
「はっはっは、俺達がどれだけ捜しても尻尾を掴む事すら
できなかったのになァ、カカシ」
「ガイ、感心してる場合じゃないでしょ」
隣で豪快に笑うガイに呆れた目を向けながら、カカシが小さく
嘆息を零した。
ガイに警戒心が無いというわけでは無いのだろうけれど、あまりにも
軽すぎる、そこが欠点だと思う。
「さ、牢に戻ってもらうぞ、2人ともだ」
「……くッ、こうなったら……強行突破だってばよ!!」
「おい、ナルト!?」
せっかく牢から出してもらえたのに、またあんな寒い所は御免だ。
「おっと、それは困るな」
印を結んで戦おうとするナルトを止めたのは、サスケでもカカシでも無い。
「多重影分身の印だろう、それは」
「……げ、激眉せんせー…?」
腕を掴んで印を止めたのはガイだ。
いつの間にこんな間近にいたのだろうか、この至近距離でそれすらも
全く分からない。
つい一瞬前まで、対峙するかのように正面に立っていた筈なのに。
「サ、サスケ、今……」
「………俺も分からなかった」
「諦めてくれる気になったみたいだな?」
やり取りをずっと眺めていたカカシは、ナルトとサスケの間に諦めの
空気を感じてそう声をかける。
顔を見合わせた2人は、がっくりと肩を落とすしかなかった。
<続>
や…やっとサスケが出せた……!!
もうちょっとしたらサクラちゃんも出せるかな?
頑張るぞ!!
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