別に待ち合わせをしていたわけでも、知っていたわけでもない。
だからこれは本当に、偶然のことだった。
「………なんでお前が居るわけよ」
「居ちゃ悪いのか」
「…いや、まぁ、そんなコトは無いけど…?」
語尾を微妙に持ち上げつつ、脱力感丸出しで立ち尽くしているのはカカシ。
そして、店員の声に何気なく出入口に目をやって、お、と声を上げたのがガイ。
仕事帰りに一杯やってくかと、店に立ち寄ったのが間違いだったか。
どうしたものかと考えていると、いらっしゃいという店員の言葉に背中を
押される羽目になって、更に気がつけば一方的に好敵手だと決め付けてくる
男に、こっちへ来いと言われる始末。
諦めたように吐息を漏らすと、カカシは大人しくガイの隣へと腰掛けた。
テーブル席は既に一杯で、どちらにしてもカウンター席しか空いてなかった
わけなのだから、これはもはやもうどうしようもないことだ。
とりあえずとばかりに軽めの酒を注文した後、既にガイの前に置かれている
皿から一品拝借して黙々と口に運ぶ。
それに一瞬ガイが何かを言いかけたが、結局その口元はまた引き結ばれてしまった。
そうこうしている内に店員が酒を持って来て、そのついでに注文を告げると、
ひとつ頷いた店員がまた奥へと引っ込んでいく。
そして目の前の自分の酒を口に含み一心地ついた所で、漸くガイが
口を開いた。
「……聞いたぞ、お前の所に九尾が行ったらしいな」
「ん?……ああ、ナルトの事か」
忍の中でも随分有名になっていた少年が、カカシの元についた事は今朝から
流れていた、これまた随分有名な噂だ。
「あと、サスケもだろう」
「……ああ」
「どんなモンだ?」
「さあて、ねぇ…」
今日一日の出来事を振り返って、カカシが小さく忍び笑いを零す。
想像以上に楽しめそうな子供達だった。
特にナルトなんか。
「あそこまで出来が悪い奴もまぁ、久々に見たってカンジだな。
まぁ、だからこそ鍛え甲斐もあるってモンでしょ。
そう思うだろ?」
「……そうだな」
「そういえば、お前ンとこにも居たんじゃなかったっけ?
ちょっと特殊なケースの子が」
確か、忍術も幻術も何もできないと聞いた事がある。
技術がどうこうという問題ではなく、最初からその能力が欠けているのだ。
人によって得手不得手があるように術に関しても得意不得意はある程度
出てくるものだが、その子供の場合はそこが問題では無い。
使えないのだ、何も。
その差は0か1かでしかなく、1の者はそれを10にも100にも
伸ばせるが、0の者はあくまでも0でしかない。
最初は誰もが思ったものだ、彼は忍者にはなれやしない、と。
「どうなのよ、ガイ先生的には?」
「…くだらない事だ、術が使えない、それぐらいの事で」
「おお、それぐらいの事とか言うか」
通りがかった店員に酒の追加を頼むと、もの珍しげな視線でカカシが
ガイの方を見遣る。
「結構、致命的な事だと思うけど?」
「………そりゃお前、偏見ってヤツだ」
「そうか?
あくまで一般論で言わせてもらえば、体術しかできない奴が
体術も忍術もできる奴に勝てるかどうかって言えば、やっぱNOだろ?」
「勝てる、と言えば?」
「ほぉ、是非とも根拠をお聞かせ願いたい」
「そこはお前、努力と根性で捻じ伏せる!!」
「……ま、言うと思ったけどね」
胸を張って得意げに言うガイに、カカシがげんなりと肩を落とす。
最初は無茶苦茶な奴だと思っていたのだが、話してみれば意外と常識的に
モノを言う奴で、やはり忍者としては一流だ。
カカシにとってガイとはそういう風に見える人間なのだが、やはりこの
暑苦しさだけはどうにも慣れないものである。
「やっぱお前さ、根拠の無い事を言っちゃイカンよ」
「じゃあカカシも、あの子は一人前の忍者にはなれないと言うのか?」
「いや、そうは言わないけどさ」
「……まぁいい、あの子が……いつか一人前になれば、証明される事だ」
「えらく自信あるよな、ガイ」
「まぁ、な。
いつかその内、お前も見る時がくるさ」
にんまりと笑みを覗かせて、ガイが意味ありげに口元を歪めた。
よほど自慢の生徒なのだろうか、いや、どうもそれだけじゃない気もする。
「……お前の方はどうなんだ、カカシ」
「あー……ナルトなぁ……だいぶ厳しいとは思うけど……、
ま、潜在能力はえげつないモン持ってるから、なんとかなるでしょ」
「出来の悪い子ほど、強くなっていくのを見て楽しいものは無いぞ」
自分でも全く予想すらしていなかった力を得ていくのだ。
優等生の子が繰り出す大技を見るのもそれなりに眼福なのだが、
やはり、自分が何かを教えていって楽しいと思うのは、そういう時だ。
今までの成長も目を見張るものがあり、これからの成長も先が読めない。
「ひとつひとつ授けていって、確実に力をつけていく。
そういう瞬間を見るのは本当に楽しいぞ。
お前もいつか分かるさ、カカシ」
満足そうな笑みを見せて言うガイを眺めて、ああそうか、とカカシは
どこかで納得をしていた。
なるほどこれが、熱血と暑苦しいの違いか、と。
何かにつけて勝負を挑んでくる時のガイはどうしようもなく暑苦しくて
正直なところウザイ以外の何者でもないのだが。
こうやって教師面して笑っているこの男からは、今はそんな空気は
少しも感じられない。
「…俺さぁ、お前のそういうトコ、結構好きよ?」
肩に腕を回してこそりと言えば、酷く驚いたような表情が視界に入って、
カカシはニッと笑みを浮かべたのだった。
熱血教師。
暑苦しいけど、思ったより悪くない。
<終>
すいませんね、イロモノで。(爆笑)
ガイ先生も大好きなんです。誰かを先生にするなら私はきっと
ガイかアスマを選ぶだろうかと。(笑)
なんだろね、やっぱりガイ班は色々とオイシイです。
濃いクセにオイシイとこ取りすぎです。
でもそんなトコが好きなんだなぁ。
一番ツボだったのは、ガイもリーもイロモノキャラなくせに
べらぼうに強かったというトコロかと。大好き!!