空を見上げれば、今日はとてもいい天気。
だから。

 

「すいません、ちょっとお風呂場をお借りします!!」

 

 

 

 

<人生何が起こるか分からないモンだ>

 

 

 

 

 

 

人を一人包み込む着ぐるみを洗濯するのに、洗濯機を使うのは難しい。
特に犬の着ぐるみなのだから、使えばまず洗濯機が白い毛だらけになってしまうので
お手入れが大変になるし、他のものと一緒にして洗えないから何となくもったいない
という気にさせられる。
そこでリーが選んだのは風呂場だった。
昨日の残り湯がまだ浴槽に残っているし、それを使って着ぐるみを洗って、
後始末がてらに風呂場の掃除もしてしまえば完璧だ。
着ぐるみを脱いで身軽な着物姿になり、袖を捲り上げて気合を入れるとリーはその
白い毛皮を浴槽に勢い良く沈める。
その上から洗濯用の洗剤を放り込み、わしゃわしゃと景気良く両手で擦っていく。
見る見るうちに、薄く灰色に汚れていた毛並みからあぶくが浮き上がって、
よっぽど汚れていたんだなぁ、と内心で驚いていた。

 

「何してんの、リーくん?」

 

背後からのんびりとした声をかけられたので手を止めて振り返ると、この家の主が
浴室のガラス戸に凭れてこっちを見ていた。
それに、ああ、と声を上げてリーはにこりと笑顔を覗かせる。
「着ぐるみを洗濯してるんです。
 ほら、ずっと着てると汗臭くもなるし、汚れもたまりますから。
 ついでにお風呂掃除もしちゃおうかなぁって」
「そりゃ助かるよ、主にサスケがだけどね。
 しかしキミは思ったよりずっとマメだなー」
「後でコレ、物干し台に干させて下さい」
「そりゃ構わないけどさ、リーくん、いつまでその着ぐるみ着てるつもりなんだい?」
「え?」
キョトンと瞬きを繰り返すリーに苦笑を見せて、カカシは裸足の足を浴室内に
踏み込ませた。
ぺたり、とタイルの上を進む度にひやりとした冷たさが伝わってくる。
「もうキミが何者か分かったんだから、別に着てなくてもイイと思うんだけど?
 お手入れも大変だし、何よりその格好の方が身軽でいいでしょ」
「………まぁ、理由はいくつかあるんですけど…、実はこの着ぐるみ、
 少し秘密があるんです」
「秘密?」
「ちょっとコレ、持ってみて下さい」
洗っていた手を止めてリーは着ぐるみから手を離すと、水に沈んだ白い毛皮を指差す。
訝しげに眉を顰めたがやはり気になったのだろう、カカシは言われるままに手を伸ばして
水の中から引っ張り上げようと毛皮を掴み、あ、と思わず声を上げた。
「おいおい………コレ本当に着ぐるみか…?」
よいしょ、と気合を込めると何とか水面から着ぐるみが顔を出す。
水を吸ったという理由だけでは有り得ない重量だ。
「着ぐるみっていうか、修行用ボディスーツって言った方がいいでしょうか。
 重りが入ってるんですよ、この着ぐるみ」
「罰ゲームじゃなかったんだ、コレ」
「それは、首輪つけてダンボールの中に座ることです。
 友達とのゲームで負けてしまって……あはは。
 夕方まで座ってれば良かったんですが、まさかサクラさんが声をかけて下さるとは
 思いませんでした」
ましてやそのまま拾われて、更に居座ってしまうなんて。
たはは、と苦笑いを零しながら、でも、とリーは続けた。
「此処に居ると、色々あって楽しいですし……結果的には良かったと思います」
「そう?まァ………そりゃ何よりだ」
水につけてない方の手でくしゃりとリーの頭を撫でると、ごゆっくり、と少々場違いな
言葉を発してカカシは浴室を出て行こうとして、ふと思い出したように足を止めた。
「…そういえば、それ干してる間どうすんの?
 その着物のままで居るのかい?」
「ご心配なく!!」
ビシ!と親指を立ててリーが答える。

 

 

「ちゃんと、洗い替え用にもう一着持ってますから!!」

 

 

なんと用意周到な。
思わずマスクの内側であんぐりと口を開けたまま呆れた目でカカシが見ていると、
その視線の意味に全く気付きもせずに、リーは頬を赤らめて言う。
「サクラさんが……この着ぐるみ、とってもよく似合うって言ってくれたんです。
 だから、僕はこれからもずっとこの着ぐるみを着続けることを誓います!!」
「い…いや…まぁ、好きなだけ誓えばいいけどね……」
ボリボリと頭を掻くと、もういいや、と片手を振ってカカシはそこを後にした。
ソファにごろりと寝そべって、愛読書の表紙をぱらりと捲る。
浴室からは暫くの間、ご機嫌な鼻歌が聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの空の下、買い物から戻って来たサスケがふと何気無く万事屋の住まいを見上げた時、
物干し台の上で首にロープを通され、だらりとぶら下げられている白い毛皮を見つけ、

 

「…………夜中に見たくねぇ光景だな。
 すっかりホラーかサスペンスな絵ヅラじゃねーか。
 通報される前にどうにかしないと!!」

 

大慌てで万事屋に駆け込んだとか。

 

 

 

 

 

 

<END>

 

 

 

 

 

 

オチにサスケを持ってくる技。(笑)

リーを書いていると、何故だか新八と錯覚しそうになりました。
あの喋り方がいかんのだろうか……基本ですますだからね、どっちも。