<揉めそうになったら多数決かジャンケンで決めろ>
いきなりだが、事は今より数年前に遡る。
大きな戦争を終えた後、木ノ葉の中枢部は里の治安を改善するために
特別部隊を立ち上げる事に決めた。その時のことだ。
「はぁ………こんな紙っ切れ一枚で俺の未来は決まっちまうわけ、か」
辞令という2文字で始まるその書類を眺め、物憂げなため息を零しているのは
アスマである。
いかにも面倒臭いという表情を顔面中に書き殴ったような、そんな顔で
新設したての屯所のソファを牛耳り背凭れに首を乗せて、ふぅと再び吐息を漏らせば
煙草の白い煙が天井へと舞い上がった。
アスマが手にしている辞令は全部で3枚。
その内の1枚は自分のものだ。
そして残りの2枚の持ち主は未だこの場所に現れず、自分は待っているだけの
この現状こそ、何より一層めんどくさい。というより帰りたい。
「ったく……何やってやがんだ、あの2人は……」
ガリガリと頭を掻きながら所在無さげにしていると、廊下の向こうから
何やら騒がしい声が聞こえてくる。
アイツを迎えに行ったソイツが帰ってきた、といった所だろうか。
アスマが視線を障子の向こうへ向けていると、ドスドスという足音と共に
スパーンと景気良くそれが開いた。
「馬鹿者が!!
だから今日はちゃんと起きろって言ったんだ!!
しかも昨日の話だろうが、もう忘れたのか?健忘症か!?
いいから大人しくしろ、カカシ!!」
「いだだだだ痛い痛いマジで痛いから!髪の毛掴むの止めろってば!!
お前の力で引っ張ったら絶対抜けるから、絶対もう何本か抜けてるから。
ハゲたらガイ、お前責任取ってくれるんだろうな!?」
ぎゃあぎゃあと喚きながら入ってきたガイとカカシに目をやって、
アスマはもう一度煙混じりのため息を零したのだった。
何がめんどくさいかって、この2人が一番めんどくさいのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
どうにかこうにか落ち着いた2人もソファに座らせ、アスマは手にしていた
辞令をガイとカカシの目前にチラつかせた。
訝しげに見てくるガイと、全くやる気の片鱗も見せないカカシに、煙草を
灰皿で揉み消したアスマが言う。
「ここに辞令が3枚ある。
新たに木ノ葉が立ち上げた『真選組』の局長を任ずるものが1枚、
副長を任ずるものが2枚だ。
ところが、だ。ひとつ問題があってだな」
「問題?…なんだ?」
ガイの問い掛けに、アスマは2人にも内容が見えるように3枚をテーブルに並べた。
「氏名が書いてねぇんだよ」
「……それじゃ、意味ないんじゃない?」
脱力しきった状態でカカシが肩を竦めると、いいや違うな、とアスマは新たな
煙草を取り出し火をつけながら返す。
「要するに、俺らで勝手に決めろってこった」
「おいおいおい、いいのかそんな事で」
「三代目曰く、俺達3人ともそれぞれに長所があって甲乙つけがたい。
だからてめぇらで喧嘩の無いよう話し合って決めろ、ってさ」
「絶対めんどくさかっただけだ、それ」
「俺もそう思う」
アスマの言葉にガイとカカシが顔を見合わせそう呟く。
そんな事は百も承知だとアスマが言うと、テーブルにあった辞令を3通とも
同じように4つに畳んだ。
それを2人に見えないように背中で暫くシャッフルをして、テーブルに並べてから
更に混ぜると、窺うように上目遣いに2人を見る。
「恨みっこナシだ、お前ら適当に引けよ」
混ぜたのは自分だから余りものでいいと言うと、ガイもカカシもこのやり方で
異存が無いのか、ガイは真ん中のものを、カカシは左のものを手に取った。
残った右のものをアスマが手に取り、せぇので開く。
「あ、俺『副長』だって」
「俺も『副長』だ」
「……てことは…」
「つまり、そういうこと、か」
カカシとアスマが交互に言って、同時に視線をガイの元へと向ける。
彼が手にした辞令に燦然と輝くのは『局長』の2文字。
「………こりゃまた、濃ゆい部隊ができそうだなぁ」
「濃ゆいってどういう意味だ」
「鏡見て来いや、鏡をよ」
バチバチと火花を散らすガイとアスマの傍らで、カカシはふぅん、と頷くと
重そうに腰をソファから持ち上げた。
「……ま、頑張んなよ、アスマ」
「は?なんでそんな他人事みたいに言ってんだよおめぇはよ。
お前もちったァ頑張れってんだよ」
「………これでも色々考えた結果なんだけど、さ」
びりり、と音を立てて破られたのは、『副長』と書かれた辞令。
「俺、イチ抜けるわ」
あっさりと言い放って更にビリビリに辞令を破るカカシへと、呆気に取られた表情で
ガイとカカシは目を向ける。
「抜けるって、カカシお前何言って……」
「やー、もう、なんかだるいし」
「そんな理由で投げ出すんじゃねぇよ!!
お前はひきこもり寸前の登校拒否児童か!?」
「なんで俺の過去知ってんの?」
「経験済みかッ!!
ひきこもり経験済みなのかッ!?」
「…………抜けて、どうするつもりなんだ?」
引き止めるより前にツッコミを入れ続けるアスマの向かいで、じっと見つめていた
ガイがぽつり、と口を開いた。
その疑問にそうだなぁ、とやる気のなさそうな表情のままでカカシは目線を
上へ持ち上げる。ひとしきり考えた末に。
「俺は……いや俺だけじゃないけどさ、俺達はみんなお上の言うままに戦ってきた。
長かった………ホントにヤな戦争だったよ。そういうのはもう、いいやって思ってさ。
適当に何かやって、適当に暮らすよ、俺」
「野たれ死ぬのがオチじゃないのか」
「ま、その時ゃその時だよ。
言われるままにやってくのはもう、やめようって話さ」
「カカシがそうしたいのなら、まぁ好きにすればいいだろう。
副長っても、アスマ一人で問題ないだろうしな」
「いやちょっと待て勝手に決めてんなよお前がよ!!」
「サンキュ、ガイ」
「聞けっておめぇら!!
……ああもう、好きにすればいいだろ勝手にしろよ馬鹿野郎が」
「ありがとね、アスマ」
「野たれ死んだら指差して笑いに言ってやる」
へらりと笑うカカシに眉を顰めていたアスマもしまいには諦めたような表情で、
そう吐き捨てるように言った。
面倒だから局長にだけはなるつもりはなかったのだが、カカシが抜けると最初から
分かっていたのなら、こんなまどろっこしい事などせずにさっさとガイを局長に
仕立て上げて済ませたのに、全く面倒臭い話だ。
「アスマ、火を貸してくれんか?」
「ん?なんだガイ、煙草か?」
「いや、そうじゃないが…」
何だかよく分からないがとりあえず言われるままに懐からライターを取り出し
向かいに放ると、右手で上手く受け取ったガイが手に持った辞令を見下ろした。
「………俺とアスマの間だって、上も下も今更無いだろう。
局長も副長も所詮は首から下げる飾りに過ぎん。
こんな紙切れ一枚になんの権限もありはせんさ。
全く無意味なものだ。…………邪魔にこそなりはするが、な」
言うなりガイは灰皿の上で、その辞令にライターで火をつけた。
それは勢い良く燃え上がると、火はあっという間に紙全体を包んでいく。
「こんなもの無くていい。
2人で部隊を率い、木ノ葉を守れば良いのだろう?
…今までとやることは変わらんだろう」
「あーあーあー、なんって事してくれてんだよお前。
けどまぁ……一理あるか。
なんつーの?局長とか副長とか重てぇし。面倒だし。
俺らは俺らのやり方で、適当にホドホドにやってけばイイって事だよな」
灰皿の上で燃えていく紙切れを眺めながら言ったアスマは、一度は懐に仕舞った
辞令をもう一度取り出すと、灰皿の上に放り投げた。
あっさりと燃え移った火がアスマのものも簡単に灰にしていく。
「そうそう、それじゃ俺はそれを見てる事にするわ。
正義の味方ってガラじゃないんだよね、そういう役目はガイだから。
だから俺は、」
火のついた灰皿の上、パラパラと舞う紙吹雪。
「自分のやりたいように、思うように生きるさ」
お上の命令で戦うなんて、もう沢山だ。
これから先は、自分の思うように生きて、自分の護りたいもののために戦いたい。
「お前、今までだって充分すぎるぐらい勝手気侭にやってたような気がするけどよ」
「同感だ。こっちは振り回されてばかりで若干殺意も湧き出していたところだ、
離れてくれるならむしろラクになっていい」
「ひどッ!!
頑張れよとかしっかりやれよとか、こう、新しい門出を祝うような言葉を
ちょっとぐらいは出そうよお前らさァ」
キツい言葉をかけてくるアスマとガイに眉を寄せてカカシが言えば、顔を見合わせた
2人は同時にニヤリと口元を歪めた。
「「 クソくらえ、だ。 」」
<END>
ナルトなんだけど、なんだか銀魂っぽい。
銀魂っぽいんだけど、やっぱりナルトはナルト。
そんな微妙なバランスを保ってみたいわけだ。
……銀魂のノリって、結構難しいですよ。(汗)